タイのバンコク病院(Bangkok General Hospital)で、内科医として日々診療にあたる仲地省吾(なかち しょうご)先生は、2007年に日本人で初めてタイの医師免許を取得した人物です。これまでの経緯と、現在バンコク病院で行なっている診療について、お話を伺いました。

「外国で医師として働きたい」ボランティアとしてパキスタンへ

私は1982年に山口大学医学部を卒業し、2001年まで同県宇部市の民間病院で内科・消化器内科医として勤務しました。忙しくも充実した日々でした。
42歳になった頃、初めてタイを訪れます。異国の地で過ごす時間は非常に刺激的で、それまで日本しか知らなかった私を魅了するには十分なものでした。アジアを好きになり、それから何度もアジア諸国を巡りました。ところが、徐々に観光するだけの時間に物足りなさを感じ始めます。

「外国で医師として働きたい」

海外で働くことに、漠然ながらも強く興味を惹かれていきました。しかし、内科は総合的な診療科であるため現地に医師が充足していることが多く、海外に働き口を探すことは想定外に困難でした。
そんなとき、ペシャワール会の存在を知ります。ペシャワール会はパキスタンでの医療活動支援を目的に活動する国際NGO(NPO)団体で、当時、2001年に始まったアフガン戦争に際して難民の治療にあたっていました。私は彼らの活動に衝撃を受け、ペシャワール会に参加し医師として働くことを決意します。

2002年にパキスタン辺境の地、ペシャワールにある50床ほどの病院で医療活動を始めました。そこから3年間、おもにアフガン難民の診療に従事します。ときにペシャワールから国境を越え、3〜4箇所の診療所を訪問することもありました。

マヒドン大学熱帯医学部を経て、タイの医師免許を取得

2005年、ペシャマールでの生活を終えるにあたり、タイのマヒドン大学熱帯医学部に修士課程に入学。勉学のかたわら、タイで医師として働く方法を徹底的に調べました。
当時、外国人がタイの医学部へ入学するのは困難でした。しかし、一定の基準を満たせば医師免許取得に必要な国家試験の受験資格がもらえることを知り、私は1年半かけてようやく受験資格を得ます。
国家試験は基礎と臨床の全科目から出題され、しかもすべてタイ語で行われます。私は猛勉強の末、2007年12月に医師免許を取得、2008年にバンコク病院での勤務をスタートしました。

バンコク病院での診療について

general physician(総合内科医)として、内科一般の診療を行う

現在バンコク病院で、general physician(総合内科医)として、風邪や慢性疾患(徐々に発症し、治療・経過が長期におよぶ病気)など内科一般の診療にあたり、1日におよそ20〜30名の患者さんを担当しています。
私がみる患者さんは基本的に日本人で、9割は日本からタイへの駐在員です。ほかにも、割合は少ないですが日本人旅行者、外国人の患者さんをみることがあります。

当院の内科は救急医療(一刻を争うような緊急事態を除く)も担当しており、たとえば心筋梗塞、脱水によるショックなどの患者さんを診療することもあります。
病院内にはあらゆる専門科に医師が在籍し、バックアップ体制も整っていますので、もし少しでも気になる症状があれば、安心して当院へお越しください。

国が違っても提供する医療に大きな違いはない

もちろん、国ごとに医療に関する考え方は多少異なります。しかし、たとえ国が違っても、病気に対する治療や薬など、提供する医療そのものに大きな違いはありません。

患者さんの多くは日本人の駐在員のため比較的若い

日本の病院では、高齢の患者さんを中心に診療していました。しかし現在は、先述の通り患者さんの9割はタイの駐在員ということもあって、おもに若年層〜中年層の患者さんをみています。そのため、厳しい状態の患者さんは比較的少ないことが特徴です。

タイ、バンコクに特徴的な病気とは

タイでは熱帯病が多く、バンコクでは特にデング熱が蔓延している

タイは熱帯地域という土地柄、熱帯病の発生が多い傾向にあります。バンコクでは、特にデング熱が蔓延しています。
デング熱とは、ウイルスを持っているネッタイシマカ(一般的にヤブ蚊とも呼ばれる蚊)などに刺されることでデングウイルスに感染し、発熱をきたす病気です。おもに東南アジアや南アジア、中南米などの熱帯地域に流行します。

デング熱の発生地域(出典:国立感染症研究所)

デング熱はバンコクだけで年間1万人の発症報告がある

デング熱はバンコクだけで年間1万人、タイ全体では15万人ほどの発症報告があります。熱帯気候のタイにおいて、デング熱は一時的な流行というよりも絶えず蔓延している状態に近いでしょう。特に、6〜10月頃の雨季には発症数も増加する傾向にあります。

デング熱の潜伏期間は、通常3〜7日といわれています。そのため、旅行者の場合には帰国後に発症するケースが多い傾向にあります。
デング熱の検査は採血による抗原検出を行い、1時間ほどで完了します。

定期検診による病気の早期発見・治療に関する相談を受ける

企業のバックアップで年間1万人の方が定期検診に訪れる

一般的に、タイの駐在員は企業のバックアップで定期検診に通います。そのような背景もあり、当科には年間におよそ1万人の方が検診に訪れます。
定期検診の内容は日本の人間ドックに近く、幅広い項目で検査を行います。

がんを発見した場合には、あらゆる視点から患者さんの相談にのる

定期検診によって、がんを発見するケースもあります。
1〜2か月で治療できるような症例であれば、患者さんと治療について検討します。一方で、長期の治療を要する場合には、日本での治療を推奨することもあります。その際には、がんに対する治療の内容、ご家族のこと、治療にかかる金銭面、日本の医師・病院の紹介など、さまざまな視点から患者さんの相談に乗っています。